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老いを学ぶ
2024年07月31日
老いの工学研究所提供
「健康な高齢化の10年」を見据えた、日本の課題。
あまり知られていませんが、2020年の国連総会において、2021年から2030年をその期間として「健康な高齢化の10年」が採択されています。日本は世界で最も高齢化が進んでいる国ですが、他の多くの国でもこれから高齢化が進んでいくので、それを見据えたものであり、SDGsにも連動した宣言です。これを受けて、世界保健機関(WHO)は「4つの行動計画」を提唱しました。
今回は、「4つの行動計画」の内容に照らしながら、日本の取り組み課題を見ていきたいと思います。
●日本の高齢者は、コミュニティーに恵まれているか。
行動計画の1つ目は、「年齢や年を取ることに対する、私たちの考え方、感じ方、行動を変える」こと。アンチエイジングという言い方に象徴的に表れていますが、多くの人は年を取ることにネガティブなイメージを抱き、“若さ信仰”のようなものを持っています。年を取れば全ての能力が衰えていき、できないこと、失うことが増えていくばかりであると思いがちです。「年寄り=弱者」と認識しているので、庇護(ひご)するような行動に偏っていきます。
制度面でも、例えば「定年退職制度」は、職業に関する能力などとは関係なく、年齢だけを理由に退職させるわけですから、年齢差別に該当するでしょう(欧米では違法とされている国が多い)。採用については、「職業能力と年齢は関係ない」という理由で求人票に年齢を記載することが禁じられているわけですから、定年退職制度が許容されているのは明らかに一貫性がありません。
2つ目は「高齢者が、さまざまな能力を伸ばせるようなコミュニティーを実現する」。この項目で明確にされているのは、高齢期にも発達する能力はあり、年を重ねたからこそできるようになることもあるということ。実際に、創作・表現、観察・洞察といった分野の能力は年を取っても衰えない、という研究結果はたくさんあります。
しかし、その前提は「コミュニティーの存在」であるというのが肝です。コミュニティーがあるから学びや刺激を受け、コミュニティーがあるから機会を得てその力が発揮されることになります。この点、孤独が問題となるくらいですから、日本の高齢者がコミュニティーに恵まれているとはいえません。
3つ目は、「高齢者がそのニーズに応じて、日常的に総合的なケアサービスを利用できるようにする」こと。ポイントは“ニーズに応じて”のところにあります。
ニーズに応じたケアとは、「各々の状況や意思に基づく」という意味であり、高齢者をステレオタイプに捉えて画一的で過剰になりがちなケアへの戒めだと考えられます。画一的で過剰なケアは、自分でできることまでケア側がやってしまうことになるので、高齢者の衰えにつながります。またそれは、高齢者を子ども扱いするようで尊厳にも関わります。
また、総合的なケアサービスという面では、日本では「何でも診てくれる、相談できる医師・クリニック」というのは多くないのが現状です。だから、具合が悪くなったら「どこの病院に行こうか」と考えてしまいますし、行ってみたら「専門ではないから」と言ってちゃんとした診断や治療が受けられないこともよくあります。「かかりつけ医」も名称だけは浸透しましたが、実態は全く伴っていません。この点も重要な課題です。
●全員が「当事者」として課題を考える
そして4つ目は、「必要な高齢者に介護サービスを提供する」こと。これについては、日本は2000年に介護保険制度ができ、既に20年以上がたってその利用も進んでいますから、ある程度はクリアできているといえそうです。「親の面倒は、子どもやその配偶者が最後まで見なければならない」という価値観が色濃く残っていた時代には、多くの人が仕事などを犠牲に親の介護をしてきたわけですが、その頃とはかなり違ってきています。
もちろん、介護保険の財源不足、給付と負担のバランス、被保険者と受給者の範囲の見直し、給付内容や水準の見直し、介護現場における職員の人材不足や処遇改善、ロボットやITの活用など検討課題はたくさんありますが、介護保険制度が、高齢化が進む中で広く安心感を提供しているとはいえるでしょう。
日本は高齢化の先頭を走る国ですが、「健康な高齢化の10年」における4つの行動計画に照らせば、まだまだ課題は多くあることが分かります。誰しもいつか高齢者になるわけですから、これらの課題は全員が当事者として考えてみる必要があるでしょう。また、ここで見てきた課題の解決はノウハウ・仕組み・技術となり、これから高齢化率が高まってくる国々に輸出可能なビジネスとしても期待できるはずです。
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