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老いを学ぶ

2020年01月08日

老いの工学研究所提供

高齢者の事故のうち約77%が家の中。終活は、「住まいの見直し」から。

老いの工学研究所

「終活」と聞くと、「相続」「保険」「葬儀」「墓」「物品の整理(断捨離)」「終末医療に関すること」を思い浮かべる人が多いことでしょう。確かに、これらの準備は残される子どもや親族を混乱させないために重要です。しかし、私は一つ忘れられている項目があるように感じます。それは「住まいの見直し」です。これは高齢者だけでなく、高齢の親を持つ現役世代の人たちにも考えてほしい問題です。

半数近くは「住まいに不満」

2017年の「高齢社会白書」によれば、高齢者の事故のうち約77%が家の中で起きています。段差につまずいたり、足を滑らせたりして転倒するケース、冬場に暖かい部屋から寒いトイレや浴室などに行った際、急な温度変化から心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすケースなどが典型的で、死亡するケースを含めて重症化が進んでいるといわれます。

これは、若い頃には何の問題もなかった家が、高齢者にとってはリスクに変わってしまうことを意味しています。若い頃は、家の中の段差も階段の上り下りも気になりませんし、温度差があっても我慢すればよいだけです。部屋数の多い家の掃除も庭の手入れも少し面倒なくらいで、頑張れば問題ありません。ところが、年を取るに従って、これら全てが事故を誘発するリスクになっていくわけです。不慮の事故が起こってしまえば、せっかくの健康習慣もある日突然、水の泡になってしまうかもしれません。

2015年に私たち「老いの工学研究所」が行った調査で、高齢者の半数近くは住まいに不満を持っていることが分かりました。グラフの点線を見ると分かるように、70歳代後半でも9割近くの人が健康(要介護状態ではない)であるのに、住み替えの行動を起こさず、不満のある家に我慢して住み続けているというのが実態です。なお、85歳以上で家への不満を持つ人の割合が少ないのは、住み替えを済ませたか、施設などに移ったかであると考えられます。

この調査では、住まいへの不満の中身も聞いていますが、不満は家の中に関することだけではありません。「周辺に坂道が多い」「スーパーなどが近くになく、食料品・日用品の買い物が不便」など、環境や立地に対する不満の他、「友人・知人が近くにいない」「1人のときに体調が悪化するのが不安」「ちょっとした手伝いをしてくれる人がいなくて困る」といった、コミュニティーのなさや孤独・孤立への不安も多くありました。

子どもから提案する方法も

高齢の親を持つ子どもは「親が現役時代から住んできた家には、転倒やヒートショックなどの事故リスクが潜んでいること」、そして、「親世代の半数が自宅や周辺環境などに不満を抱いていること(それでも我慢して住んでいること)」を理解する必要があります。そして、健康長寿を願って、高齢者向けに造られた住まいに、早めに住み替えることを提案してみてはどうでしょうか。

高齢期の住み替えは、欧米では普通のことである一方、日本ではまだ一般的ではありません。しかし、親に万が一のことがあれば、自分の仕事や生活にも影響を与えかねず、自分自身のためにも大事な働き掛けだと思います。

65歳の人の平均余命は現在、男性が19.6年、女性が24.4年。つまり、65歳まで生きた人は、平均的に男性は85歳、女性は90歳まで生きるということです。このような長い高齢期を考えれば、相続や葬儀といった「死に備える終活」の前に、どのようにして健康に、楽しく暮らすかという「充実長寿に向けた終活」をしなければなりません。住み替えは、その第一歩といえるでしょう。

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