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老いを学ぶ
2013年12月09日
老いの工学研究所提供
老いてなお ますます冴える 剣技かな【竹松健さん(84歳)八王子剣心館道場 館長】
老いの工学研究所
竹松健さん(84歳)
八王子剣心館道場 館長。剣道・教士七段、居合抜刀道・範士八段
(撮影:小山一芳、取材:代田耕一)
全日本剣道連盟主催の全日本高齢者武道大会(剣道)を九度も制した最強の剣士に取材する機会に恵まれた。どんな猛者が待ち受けているのかと道場があるビルを訪れてみれば「四階でお待ちしております。竹松 健」の張り紙。その心遣いに一気に緊張が解ける。道場にあがると館長はまるで旧友であるかのごとく笑顔で握手を求めてくる。すっかり恐縮してしまうが、これが館長の無敵の強さの心得であったとは。
館長は江戸時代から代々剣道を愛好する家に生まれ、九歳から剣道を始め、昭和四十七年に道場を創設。現在、お弟子さんは七歳から七十八歳と幅広い。さらに剣道に加えて居合道、抜刀道、刀剣学、銃剣道も極めた武道家だ。
ご本人は小柄にして細身、明るく温厚な方でとても武道家には見えない。しかも二十年前に心筋梗塞で二ヶ月半も入院したとのこと。「年とって強くなった剣が、病気してさらに冴えてきちゃった。面白いでしょ。はっはっはっ」と高笑い。やはりただ者ではない。
ならばとその強さの秘密を尋ねると「自分を無にして間合いを詰め、有効打突を打つこと」と即答。「自分と他人には垣根がある。無になり気・剣・体を殺せば相手の懐に入ることが出来る。そこで相手をしっかりと打つ。」
さらに「戦争中、空襲で米国の空母艦載機がやってきてね、みんな助かりたいから逃げるよね。機銃掃射でやられちゃったよ。僕は死んでもいいやと覚悟して立ち止まったんだ。そしたら生き残っちゃった。生きたいと思う人が死んで、死んでもいいと思う人が生き残る。これが武道の境地だ。」何と冒頭の館長の笑顔と握手には必殺の心得が隠されていたのだ!
撮影のため館長が袴と道着に着替え竹刀を構えた時、そのあまりの変わりように全身に戦慄が走った。微動だにしないその姿からは何処を見ているのか、何を考えているのかわからない。あまりの異様さにカメラをむけるのも憚られる。「無」というものの迫力を身を以て体験することができた。
「武道の境地」は「人生の境地」でもあると言う館長。空襲経験や長期入院すら味方にしてしまう前向きさ。死をも笑い飛ばしてしまう大らかさ。我々が学ぶべき事はあまりにも多い。
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