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老いを学ぶ

2016年12月13日

老いの工学研究所提供

伝統をつないでいく責任【笠原建二さん(71歳)信濃国一之宮 諏訪大社・氏子大総代】

老いの工学研究所

笠原建二さん(71歳) 信濃国一之宮 諏訪大社・氏子大総代

(撮影:小山一芳、文:代田耕一)

「なまはげ」「吉田の火祭」とともに日本三大奇祭に数えられる「御柱祭」は千二百年に及ぶ歴史を持ち、諏訪湖周辺に四ヶ所の境内を持つ諏訪大社の社殿造営に合わせて7年に一度行われてきた。これは霧ケ峰から切りだした「御柱」と呼ばれる樅の巨木16本を、里までの10km以上の道のりを曳きまわし、最後に四ヶ所それぞれの境内四隅に建てるというもので、祭りが最高潮に達するのは「御柱」が長さ100m、勾配35度の急坂を一気に下り降りる「木落し」である。

「御柱祭になると血が騒ぐ」というのは諏訪大社・氏子大総代の一人、笠原さんだ。「御柱祭」では大総代が御柱を曳く氏子衆(20万人を超える!)をまとめ、祭りを指揮する。3年がかりで準備するが、主な行事だけでも
御柱の仮見立て→御柱の本見立て→清祓式→奉告祭→綱打ち→山出し→御柱木落し→御柱里曳き→建御柱→式年造営と遷宮→小宮祭り(諏訪の全神で御柱祭が行われ半年間かかる)
と目白押しだが、笠原さんは「大総代」としてほぼその全てに参加する。

さらに祭りの練習や下準備、各担当地区の氏子組織作りそして自治体や警察などの各関係機関との調整や打合せが行われ、また「御柱祭」以外の重要な神事に氏子の代表者として参列しなくてはならない。「近頃あきらめたのか奥さんに怒られなくなった」と苦笑いする。

長年にわたって「御柱祭」に関わり続け、地元に尽くしてきた笠原さんには、やはり人望が集まるのか、巨木の先頭で大御幣(おおごへい)を掲げる「大御幣奉持者(ほうじしゃ)」という大役を47歳で任されたのを皮切りに、「事務局長」「曳行係長」「曳行長」と大役をこなし、今年「大総代」に選ばれた。
また、笠原さんは「御柱祭」になくてはならない木遣りの名人でもある。笠原さんの、御幣(オンベ)を高くかざしながらの木遣り一声
『奥山の大木 里へくだりて 神となる ヨーイサ』
を受けて「ヨイサ ヨイサ」と数千人の曳き手たちによる曳行が始まる。

木遣り唄の役割は曳き子にタイミングを伝えるだけではなく、木遣りによって「御柱」に「神」が宿るとされている。昔ながらの見事な木遣りを継承している笠原さんの木遣りは若者たちの憧れだという。

その笠原さんは「年をとればとるほど御柱祭の意味や大切さがわかってくる」という。例えば神事においては、しきたりや所作振舞。祭においては準備作業や祭具や供物の調達・確保・製作あるいは本番の段取り。そして地区においては習わしや謂れ、そして森林保全と用材確保。木遣りでは歌詞や唱法など、経験を積み重ねてきたものにしかわかならないことばかりだ。そして何よりも大切なのはこれらを次の世代に伝え、祭りの担い手を育てていくことである。
笠原さんを通じて「御柱祭」というものが一人一人の生きる糧でありながら、世代を超えて地域を一つにまとめあげる「大いなる営み」であると強く感じた。

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