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老いを学ぶ

2017年04月13日

老いの工学研究所提供

72歳、世界に挑む。

老いの工学研究所

齋藤泰行さん(72歳)/齋栄織物株式会社 代表取締役

(取材撮影:小山一芳、構成・文:代田耕一)

福島の山間の小さな町・川俣に世界中から注目されている会社がある。伝統的な技法をベースに世界一薄いシルク「フェアリー・フェザー(妖精の羽)」を開発した齋栄織物だ。

もともと絹織物の産地として名高い川俣町。約1400年前、崇峻天皇の妃・小手姫が、敵に追われ辿り着いたこの地で養蚕と機織りを広めたのが起源という。以来、上質な生糸と薄手の絹織物の産地として名を馳せ、輸出のはじまった明治から大正にかけては「東洋一」と称され隆盛を極めたが、化学繊維の普及や安価な海外製品により一気に衰退してしまった。

大手を含めて廃業あるいは撤退していった絹織物業者たち。地場産業の行く末を案じた彼らに腕利きの職人や機械を託された先代が、「地場産業を守る」ため1952年に創業したのが齋栄織物である。先染織物に活路を見出し、光沢のあるウエディングドレスやタキシードで売り上げを伸ばしていったが「リーマンショック」に見舞われ仕事は激減した。「地場産業を守る」という先代の使命を受け継いだ齋藤社長。「このままでは川俣シルクの未来はない」そう危機感を覚え、「フェアリー・フェザー(妖精の羽)」への挑戦を始め、四年の歳月を費やし完成させた。その薄さと軽さ、美しさから世界を魅了し「アルマーニ」などのトップブランドが採用。異業種からは「iPS細胞の研究」「気象衛星用のパラシュート」などに使いたいと注文が殺到。またNHK大河ドラマ「八重の桜」の衣装に採用され、伊勢志摩サミットにおいて日本の三大最先端技術として展示されるなど話題を大いに集め、地場産業の振興にも貢献してきた。

日本のものづくりの最先端をゆく齋栄織物だが、齋藤社長は「うちには神さまと呼ばれている職人たちがいて、その職人なしにはフェアリー・フェザーは作れません」と断言する。
長さがバラバラな生糸。生地を織る機械にかけるためにボビン(糸を巻くための筒状の道具)に糸を撚り合わせながら一本に巻き取らなくてはならない。糸が途切れたら、目に見えない糸の端を手の感覚で探しあて、次々に結び一本に繋ぎ合わせる。繋いだ糸は髪の毛の僅か6分の1。続いて糸を集めて機械で縦糸を作るが、超極細の糸なので糸切れを防ぐため糸のテンションを手で確かめながら厳密に管理する。

最大の難所は3万本の糸との戦いである。織り機にかけるために3万本もの糸を3ミリの穴に一本一本手で通す。2週間かかるという気の遠くなるような繊細な手仕事だ。神さまたちは全員70歳代。ますますお元気だ。齋藤社長は今、画期的なシルクの開発に挑戦している。シルクの欠点を克服し「ストレッチ性がありシワになりにくく、洗濯機で洗える」という夢のような製品で「繊維業界の構図が変わり、皆様の世界も変わる」という。

齋栄織物の経営理念は「SILK INNOVATION」。まさにシルクで世界を変えようとしているのだ。「震災以降、より強く自分の使命を感じるようになりました」と意欲あふれる72歳。先人たちに託された「地場産業を守る」という想いに応えるため世界への挑戦は続く。「川俣シルク」が再び世界の注目を集め、復興する日は近いのではないだろうか。

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