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老いを学ぶ

2023年04月17日

老いの工学研究所提供

「子どもに迷惑をかけたくない」を実現する、たった一つの方法。

高齢者と接していて、もっともよく耳にするのは「子供に迷惑をかけたくない」という言葉です。お墓や葬儀、相続などのこともありますが、ほとんどの場合、介護が必要になって子供たちに苦労や心配をかけるのは避けたいというもので、「ピンピンコロリ」「死ぬならガンが一番よい」とおっしゃる人のも介護の負担が子供に及びにくいからというのがその真意でしょう。

ただし、深く話を聴いてみると、「迷惑をかけたくない」には単に負担をかけたくないというだけでなく、もう少し複雑な面もあるようです。たとえば、重い介護状態で身の回りのことが自分で出来ないのは自立や尊厳に関わるもので、自分も子供にも耐え難いし恥ずかしいだろう、といった気持ちです。自分の意思で自分の思うように行動できない人になってしまうのは、所属していた集団やつながっていた人間関係を失うことと同じで、それによって子供たちへの依存を強めてしまうのではないかという想像も働いているように思います。

もっとも、そこまでの介護状態になる可能性は低いので(例えば、80歳代後半で要介護2以上の人は約23%、要介護3以上だと約15%しかいません)、悪い想像をし過ぎて、せっかくの高齢期をネガティブな発想で暮らすのは良くありませんが、可能性が低いとは言え、人生の終盤を迎えて「子供に迷惑をかけたくない」と願うのは当然です。では、どうすれば実現するのでしょうか。

●気合も我慢も意味がない。
「自分は何でもできるし、これからも頑張って同じようにやっていくつもりだから、お前たちに迷惑をかけることはない。心配するな。」と胸を張って言うお年寄りがいます。その気概は立派ですし、それなりの努力もしておられるのだと思いますが、だからと言って、転倒や骨折をしないわけではありませんし、脳や心臓の疾患で体調が急変する事態がないわけではありません。気合では乗り切れないということです。

「年をとったから余計なことはせず、ここで今まで通りの生活を続けていくから、心配しないで。」と言う人もいます。周辺環境が変わって会話や交流の機会が減っても、外出や家事がおっくうになってきても、事件や災害のニュースを見て不安になっても、我慢するしかないという姿勢は子供を思いやってのこともあるのでしょうが、そうは言っても限界があり、交流や運動が減ったり、ストレスを抱えたままの状態でいたりすると心身の衰えが加速しますし、事故や病気のリスクも大きくなります。

「夫婦二人とも元気だから、どちらかが不自由な状態になっても助け合って暮らすから、大丈夫。子供に負担をかけることはない。」と考える人もいます。老々介護を受け入れる覚悟かもしれませんが、若い世代でも大変な仕事を老いてからする大変さは容易に想像できるものではありません。「助け合って」とは言ってもどちらかが先に亡くなるわけですから、一人暮らしになったときに問題なく暮らせるかどうかも考えておく必要があるでしょう。また、もし二人とも要介護状態になれば、子供の負担や心配はより大きなものになってしまいます。

高齢期が数年しかないなら気合や我慢も分からなくはありませんが、二十年、三十年となる可能性もあるわけですから、そのような暮らし方は、子供に迷惑をかけるときがせいぜい先延ばしになるだけであって、それはすなわち子供たちに心配をさせている期間が長くなるのと同じことです。

●「子供に迷惑をかけなくてすむ」環境を早めに手に入れる
高齢者白書によれば、介護が必要になった主な原因の上位は、「認知症」「脳血管疾患」「高齢による衰弱」「骨折・転倒」となっています。であれば、子供に迷惑をかけないためには、これらを防止、あるいはこれらへの素早い対処体制があれば良いということになります。会話や社会参加や運動が盛んな場所にいれば認知症の防止になりますし、高齢による衰弱も予防できます。脳卒中になったときにもすぐに助けが呼べて対応してくれる人がいれば、後々の症状がまったく違ってきますし、段差や階段が少ない家、歩きやすい環境に住めば骨折や転倒も未然に防げるでしょう。

子供に迷惑をかけないためには、気合や我慢といった根性論で終わらせるのではなく、要介護になりにくい環境に住まうという具体的な行動が必要だということです。もちろん、年をとって家財道具を整理したり環境を変えたりするのは大変でしょうが、住み替えを含めて高齢期に相応しい環境を整えた高齢の方々は、子供に何年にも渡って負担を負わせ続ける可能性を考えて、その大変さを乗り越えられたのだろうと思います。

子供に負担を負わせず、不安を与えない高齢期を実現するには、高齢期の心身の状態や高齢期特有のリスクに見合った環境や住まいを手に入れることが恐らくもっとも重要であり、筆者には他の方法が見当たりません。そして、高齢期に相応しい環境は、「子供迷惑をかけない」だけでなく、自立した暮らし、自律的な生活や尊厳、人間関係の維持と帰属や承認の欲求の充足といった様々な要素も満たすことになるはずです。

(川口雅裕)

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