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老いを学ぶ

2013年03月12日

老いの工学研究所提供

死について、もっと話をしよう。

老いの工学研究所

数が少なくなると希少価値が生まれるので、人はそれを大切にするようになる。だから少子化によって、親にとっての子供一人の価値が上がったわけだ。中国ではモンスター・ペアレンツが問題になっていて、そのクレームの付け方は日本よりはるかに酷いらしいが、それは一人っ子政策によって子の価値が上がった結果でもある。
逆に、数が多くなると価値が低下するから、人はそれを軽く扱うようになる。国立社会保障・人口問題研究所によれば、死亡者数は2005年の108万人から、2010年に120万人に増えており、2030年には160万人になると予測されている。ということは、高齢化によって死のインパクトが低下し、だんだんと軽く扱われるようになっていくはずだ。

2月中旬、85歳で亡くなった親戚の葬儀に参列した際、そのような変化を感じた。そこは田舎なので、10年ほど前までは故人の家にたくさんの村人が集まって、手作りで葬儀を執り行っていたが、今では葬儀場に任せるのが普通になったようだ。だから、時間通りにピッタリと終わる進行のスムーズさは見事なのだが、計算し尽くされた流れ作業のように思える。プロの司会者の声は美しいが、ベテラン車掌の車内アナウンスのように気持ちが伝わらない。食事はホテルの宴会場のような整然とした雰囲気の中でとるので、全体に口数が少なく、昔見たような酔っ払いオヤジもいないし、故人を偲ぶ会話には泣き笑いがなく淡々としている。年寄りばかりになった田舎で昔のような葬儀をやるのは難しいとは言え、そういう葬儀で済ませるのが一般的になるのは、死のインパクトが低下し、徐々に軽く感じられるようになってきたからではないかと思う。

喫煙所では、まだかくしゃくとしている年寄りが談笑していた。「火葬は、跡形もなくなるからイイよな。昔みたいに土葬されたんじゃ、ここに眠ってるって感じがするから嫌なんだよ。」「焼かれて、手の平くらいになってしまってハイ終わりの方がいいよなあ。」「○○○さんみたいな、ポックリがベストやなあーー。」「ポックリ逝きたかったら、健康診断は行かんほうがエエで。」「酒も飲めんようになったら、死んだほうがマシやしなあ。」(葬儀が始まる前なので、この2人が酔っていたわけではない。)こんな軽い会話の様子からは、死に対する深刻さがまったく感じられなかった。

もちろん、一人ひとりの命の尊さは昔も今もこれからも同じであって、死そのものが軽くなっていいはずがない。身の回りで多く起こるから、軽く考えがちになるだけであり、それは戒められるべき思考である。しかしそれを、一概に悪いとは言えない。なぜなら、軽さは前向きさにつながるからだ。

何事においても、軽微であればあるほどすぐに決めて取り掛かれるし、迷いなく前向きに行動できる。しかし重大なことは、なかなか決められないし、取り組み姿勢も恐る恐るになりがちだ。同じように、死を重大だと思うと「どのように死ぬか。それまでどのように生きるか。」という大切な決めごとを先送りし、死に対して単に恐れや不安を抱いたまま時間ばかりが過ぎてしまう。大切な決めごとができて、前向きに充実した人生を送る人が増えるなら、死を軽く考えるのも悪くはない。死に方と死ぬまでの過ごし方が、腫れ物にさわるような、触れてはいけないテーマではなく、身近で気軽に話せるテーマになれば、年寄りの老後の充実だけでなく、若い世代にとっても大きな刺激や学びとなるはずだ。高齢化社会が死を身近なものにし、その結果、死というゴールを意識して人生を送る人が増えるなら素晴らしいことである。

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