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老いを学ぶ

2013年08月30日

「歯の激痛について」~お口の健康(9)

歯科医師 小倉才子

歯の激痛を経験されたことはおありですか?

歯の痛みは身体の三大痛みに数えられると言われております。

痛みの多くは、歯の中にある神経の炎症で、歯髄炎と呼ばれています。神経と血管が通っている「歯髄」が何らかの原因によって炎症を起こし、激しい痛みを伴う症状のことです。

歯髄炎の原因は、物理的な刺激ー例えば外傷や歯を削った時の刺激、化学的な刺激ー歯科治療で使われた材料によるもの、生物学的な刺激ー虫歯の細菌によるものなどがあります。中でも原因の多くは虫歯によるものです。

神経の炎症が比較的軽い場合は、炎症は限局的かつ可逆的です。冷たいものや酸っぱいものを食べると歯がしみて、時に何もしなくても痛い場合がありますが、冷たいものや熱いもの、硬いものなどの刺激をさけて安静にしてれば、時間が経つと痛みが取れます。または消炎鎮痛剤が奏功することもあります。全身的には身体が冷えていたり、疲れているときに歯の痛みが起こりやすいです。私の場合、漢方で対応致しますが、風邪に使用する柴胡剤で痛みが止まることがあります。

漢方で改善した症例をひとつご紹介しましょう。身体の疲れや精神的なことも歯の痛みに影響があることがご理解頂けるかと思います。歯も身体の一部です。身体全体の状態をよくすること、痛みにイライラしないことなど精神的なことも改善に影響を与えます。

【症例】60歳 男性。

【主訴】1か月ほど前から右下あたりの歯が痛い。

【既往歴】高血圧症

【現病歴】1か月前より右お母さんの介護が続き、眠れない日が続いた後に歯が痛くなった。夜眠れない。痛み止めを飲んでも一時的でまた痛くなる。イライラする

【検査所見】レントゲン及び視診では特に異常な部位は見つからない

【治療とご指導】漢方ー補中益気湯を1/2包/日を2週間ほど服用。

養生指導ーかみしめていたので、それを改善するための顎のマッサージ、鎖骨下マッサージ、ソケイ部マッサージ、呼吸法などを行ってもらう。そしてイライラしないようにお伝えする。

3週間後、身体が楽になってきたが、歯の痛みはまだある。

さらに2週間後、歯の痛みも改善した。身体の冷えが取れ、頭のもやもやがすっきりしてきた。漢方は廃薬。養生は続けるようにご指導。

上記のように、可逆性の炎症の場合は、お薬で痛みが治まるのですが、神経の炎症が神経全体に広がっている場合には、神経を取るという処置(抜髄 ばつずい)をしなければ痛みは治まらないことが多いです。この場合は温かいものを飲んで痛みがあると言われています。

歯の神経を取ってしまうと歯はもろくなってしまうので、できるだけ神経は取りたくないのですが、残念ながら不可逆な炎症が起こってしまった場合には抜髄処置をすることになります。

歯髄炎の場合、歯の痛みが強烈で麻酔も効きにくいこともあり治療も大変です。歯に穴をあけて神経を取るのですが、削ることもできない位、痛みが強いこともあります。ようやく穴が開けられると、中に溜まっていた炎症性の物質が溢れだしてきます。小さな歯の中のさらに小さな空間に押し込められて出るところがなく、内圧が高まりズキズキと痛みを発していたわけです。

神経を取る処置ー抜髄を行った後、根管という歯の根の部分を清掃し、神経の代わりのものを詰めるために根管を拡大していきます。そして神経の代わりのものを詰めることを根管充填と言います。それが終了してから、歯を元の形と同じように詰め物、または冠を被せる治療になります。
このように抜髄をすると歯科治療は時間もかかり、負担も増えることになります。

抜髄が必要な状態の虫歯というのはかなり進行しています。外傷などで歯髄炎になった場合を除けば、虫歯をほおっておくようなことがなければそのような状態になる可能性は低いです。ですから歯科医院で定期的な検診やクリーニングを受け、進行した虫歯がないかチェックして頂くことをお勧め致します。

適正な日々のお手入れと定期的な検診で、ひどく痛い思いをしないで済むこととなります。

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