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老いを学ぶ
2017年02月21日
老いの工学研究所提供
高齢者の暴行犯が増加した原因
老いの工学研究所
高齢者による犯罪が増加していると話題だが、それは高齢者が増えたからだけではなく、罪を犯す割合も増えている。下表は、各年齢層10万人当たりの刑法犯の検挙人数で、高齢者10万人当たりの刑法犯は平成元年から約3倍になっており、他の年代に比べて突出している。
次に、高齢者による犯罪の種類は以下の通りで、暴行罪が平成元年の48人から3,808人と約79倍になっているのが目に付く。傷害も10倍以上に増えた。暴行・傷害という乱暴だから、特に男性高齢者ということになるだろう。
●高齢者と非行少年の共通点
とはいえ、昔の高齢者は優しく、穏やかで分別もあったのに、今どきの高齢者は・・と嘆くのも単純すぎる話だ。アメリカの社会学者ハーシが提唱した、少年の非行に関する「社会的・絆理論」が参考になる。これによると、非行の抑止力として4種類の社会的つながりがある。①愛着(attachment)、②責務・役割(commitment)、③関わり・参加(involvement)、④暗黙の共通理解(belief)の4つだ。逆に言えば、これらを失うと非行に走りやすい。
一つ目の愛着(attachment)とは、家族・友人・恋人など愛着を感じる人たちを裏切らないようにしたい、期待に応えたいという気持ちのこと。愛着ある人の存在が、非行行動を思いとどまらせる。次の責務・役割(commitment)は、自分が成し遂げたいこと、責任を持ってやらねばならないこと、他者から期待されている役割といったものだ。これらがあれば、「非行によって、これまでの努力や実績が無に帰してしまう、信頼を失い役割が果たせなくなる」と想像するから抑止力になる。三つ目の関わり・参加(involvement)は、学業やスポーツなどの活動に参加し、その活動に巻き込まれている状態のことである。没頭し、忙しくしていれば、非行などする暇はなくなる。四つ目の暗黙の共通理解(belief)は、法やルールや規範を正当なものと信じ、これを守ろうとする態度だ。これらの社会的つながりがない少年は、抑止力を持たないので非行に走ってしまう。
高齢者に、これを当てはめてみよう。①愛着では、高齢期になると子の独立、配偶者の死、友人の減少などによって、期待に応えるべき相手、裏切ってはならない相手を意識しなくなってくる。②責務・役割でも、仕事から引退し、子育ても終了して責任や役割が減ってくる。③関わり・参加については、特に男性では現役時代に仕事以外の活動に関わりがなかった人が多く、暇を持て余すことが多くなる。④の遵法精神・規範意識のようなものはもちろん頭では分っているが、年をとるにつれて身だしなみが乱れがちになり、外見を気にしなくなってくるように、形式ばったことが面倒、億劫になり「少しくらいは大目に見てくれ」「面倒だし、まあイイじゃないか」といった緩みや甘えが湧いてきがちだ。
こう見ると、高齢になるとそもそも良からぬ行動に走りがちになるのだが、昔にはそれなりの抑止力がきいていたので犯罪が少なかっただけだと考えられる。従って、生涯現役、地域社会とのつながりなどは、犯罪の抑止の意味でも重要ということになるだろう。
●“成功者”が多い世代の喪失感
これに加え、高齢世代のこれまでの人生についても考える必要がある。70歳くらいだと戦後すぐの生まれ。子供の頃には、十分に食べ物がないような貧乏を味わった人も少なくない。しかし、学校を卒業するころには高度成長期に入り、働けば働くほど給料は上がって様々なモノを手に入れることができた。40歳代の働き盛りにはバブルが訪れ、多くの部下を持ち、高い収入を得て、企業の幹部として大きな存在感を発揮した。その結果、この世代の多くは、「貧乏やどん底から自力で這い上がった“成功者”」であると自分を認識している。自信にあふれ、会社でチヤホヤされ、家族にも尊敬されたあの感覚はまだ残っているだろう。ここまで“成功者”が多い世代は、かつてなかったはずだ。
このような自覚・感覚と現実の高齢期の暮らしには、過去の高齢者よりはるかに大きなギャップがある。キレる高齢者や高齢者による犯罪の増加は、“成功者”の自覚を持つ人が多い世代が高齢者の仲間入りをし、結果として現役時代との大きなギャップ、ひどい喪失感を感じる人が、昔よりも増えていることが原因ではないだろうか。
いわば、小さなころには勉強もスポーツも何でもできた優等生が、だんだんと普通のレベルになっていき、親や先生や友人たちからチヤホヤされなくなって自信も頑張る動機も失い、余計に成績も落ちて、やる気を失ってヒマになり、昔の自分と今のギャップに悩みながらグレていくのと似ている。そういう少年のだいたいは、自分のせいではなく環境のせいにして社会に反発する。元“成功者”が、キレて暴れるのも、そういうことではないのだろうか。
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