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老いを学ぶ

2016年01月25日

老いの工学研究所提供

「終活」という余裕や贅沢に、辿りつけない時代が来る?

老いの工学研究所

超高齢社会の問題を解決するための国の大方針は、「生涯現役社会の実現」である。生活費を年金に頼るだけでなく、少しでも働いて稼ぐ高齢者が増えれば若い世代の負担は軽くなる。働けば健康寿命も伸びるだろうから、医療・介護費の抑制にもつながる。社会とのつながりを持ち続け、多くの世代と調和的に暮らすようになれば孤独も解消されるし、増加傾向にある高齢者の犯罪や事件も減っていくはずだ。

このように、高齢者の生涯現役は良いことだらけなのだが、その実現は容易でない。単純作業は仕事場からどんどん消えているから、その日に行ってお手伝い感覚で出来るような仕事は多くない。高齢者には生活面や仕事面での知恵や経験があるが、それらは聞かずともネットで検索すれば入手できるし、専門業者に頼んでしまう手もある。地域の役に立とうとしても、つながりが希薄になってしまっており声もかかりにくい。要するに、生涯現役でいようとしても、役割を見出すのが難しい状況なのである。

今のところは、高齢化率は25%程度だから高齢者を支える余力も辛うじてあるし、年金も普通に生活できる額だから、それでも構わないかもしれない。だがこれからは、高齢化率の上昇とともに支える余力がなくなり、年金額が減っていかざるを得ないから、そうはいかないはずだ。国に頼らず働いて稼ぐ、それも暇つぶし程度でなくしっかり稼ぎ、経済的に自立することが求められるようになる。ところが、このままなら職場にも地域にも役割が少ないのだから、なかなか経済的に自立するのは難しい。

多くの人は、定年までにしっかり蓄えればいいではないかと思うようだが、緩やかな右肩上がりの給与カーブの中で、ほぼ無条件に定年まで雇用が保証されるという現在の環境がいつまでも続くだろうか。労働力不足によって女性や高齢者や外国人の労働参加が増えるが、これは同じような労働を担う男性正社員の賃金の下げ圧力になる。男性正社員だけを優遇する理由が見当たらないからだ。

また、生涯現役の方針と定年退職は矛盾していること、定年退職あるいは定年時の大幅な賃下げは「職業能力と年齢は無関係である」という原則に反していることから、定年は相当に延長され、給与カーブも寝てくるだろう。定年退職の禁止や解雇の金銭解決ルールが定められれば、雇用自体も今ほど安定的でなくなる。いずれにしても、賃金は男女間・国内外で平準化していくのに加え、さすがの岩盤労働規制も徐々に緩和されていくはずで、今のままの雇用と給与を前提にして高齢期を計画するのには無理がある。

こう考えると、つつがなく定年まで勤め上げ、老後をそれなりに豊かに暮らしながら「終活」にいそしむという現在のモデルは、今後そう長く続かないように思える。十分な蓄えを持てないまま現役を引退、年金は受給時期も遅くなり、額も十分ではないので仕事をしたいがその場所がない。そうなると「終活」どころではなく、足元の経済的不安を抱えながら、「就活」を含めて生活設計に必死にならざるを得ない。「終活」にたどりつけない、「終活」などというぜいたくを言っていられない高齢者が増えてしまう。

「生涯現役社会の実現」は国の掛け声、目標であって、その実現が保障されるわけではない。むしろ、このままでは役割を見いだせない高齢者がますます増え、生涯現役どころかお荷物となって若い世代に疎ましがられるだろう。そんな事態を避けるために、個人としては定年前の早い段階から、高齢になっても活躍し続けられる能力を身に付け、それを発揮できる場所(役割)を見出しておく努力が求められるし、公的機関や大学の提供する生涯学習、さらに企業内教育もこのような観点から見直されるべきである。

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