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高齢期を語る〜著名人インタビュー〜

2018年10月10日

老いの工学研究所提供

楠木 新さん ~定年後の良い顔には「好奇心」と「行動力」。培った経験にも「宝」が。

作家 楠木 新さん

シニアの生き方指南書「定年後」「定年準備」がベストセラーになった作家で、神戸松蔭女子学院大学教授の楠木新さん(64)。
シニアの自由時間は8万時間以上と現役時代の総労働時間より長いそうです。中でも60歳から74歳までを「黄金の15年」と位置づける楠木さんも山あり谷ありの会社員生活を経て、今年から作家と教授のダブルワーク生活に入りました。シニアの生き方指南をお願いしたところ、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られず、「良い顔」で定年後を生きるためのキーワードは「好奇心と行動力」「子どものころの自分」、培った経験にも「宝」があるとのことでした

――60歳からシニア世代が持てる「自由時間」が男性で約8万時間、女性ならもっと多い、と仰っていますが、具体的にはどういう意味でしょうか?

私は60歳で定年退で定年退職し、「プータロー」を決め込みました。その時、自分の自由になる時間は一日に約11時間ありました。60歳の平均余命は男性で約24年、女性で約29年。健康寿命が75歳までとして、それ以降の自由時間が半分の5・5時間としても、男性だとほぼ8万時間、女性だとほぼ9万時間になります。
一方、厚生労働省によると、残業を含めたサラリーマンの年間の労働時間は1800時間弱。20歳から59歳まで40年間勤めた総労働時間は8万時間に及ばない。
もうひとつの「人生」が付け加わっていると言えるわけで、後半戦が大事だとつくづく思いました。

――その「自由時間」をどう有意義に使えば良いのでしょうか?

ひとつは好奇心と行動力です。「定年準備」にも書いたのですが、定年前の50歳代の方々で生き生き働く人には、好奇心と行動力という共通点がありました。これは60歳代以降も同じだと考えます。
まとめると、①「焦らず急げ」いきなり楽しいことは見つかりません。退職前に見つける試行錯誤を重ねてほしい。②「単なる趣味の範囲にとどめない」趣味の範囲でなく、少なくてもよいからお金を稼げるレベルにすべきです。③「身銭を切る」何を学ぶにしても、身銭を切れば、判断力やモチベーションの向上につながります。④「頭でっかち」になりすぎないこと。
会社で偉くなった男性は、なにかというと「しかしながら」と言って否定しがち。会社員当時の肩書が邪魔して、こんな仕事はいや、あれも無理と言いがちです。それよりも身体や足を使ってほしい。
ただ、サラリーマンの30年以上の経験は当然無駄ではありません。そこで培ったものをカスタマイズ(自分好みに作り替えること)すれば、十分使える「宝」になる。一番多いのは営業代行です。私がいた保険会社で有能だった人は営業指導を別の企業の若手社員らに指導しており、高評価を得ています。

――60歳から74歳までの15年間を「黄金の15年」と位置づけておられますが、その意味を。また、どう過ごせば「黄金の15年」になるとお考えですか?

この15年は、まだまだ元気に活動出来て、家族の扶養義務も軽くなる。この期間を充実させて良い顔で過ごせるかが「人生後半戦」の鍵だと思います。
取材すると、時間をもて余している人もいる一方で、なにかを学んで楽しく過ごしている人もいます。両者の差は非常に大きい。たとえば「京都SKYシニア大学」という老人大学が京都にあります。シニアの学びや活動への意欲を刺激するさまざまな講座を有料で開いていますが、文学や歴史などの講座に大勢の人が生き生きと参加しています。学びとともに仲間作りをしているのだと思いますが、いくつになっても学ぶ喜びの大切さを痛感します。

――シニア世代が「良い顔」で過ごすために、取るべき行動は?

子どものころのこだわりを思い出してほしいですね。小・中学校時代の自分を振り返り、何に興味を持っていたか、逆に何にコンプレックスがあったか。そこにヒントがあると思います。警察官を定年でやめた人が、子どものころとにかく乗り物が好きだったと思い出した。その縁で、VIP用のハイヤーの運転手になって充実した人生を送っています。
私も文筆業を始めて、中学の友人から「君は人の話を聞いて、面白く伝えるのがうまかったから、いまの仕事は向いていると思うよ」と言われてハッとしました。
主体的に好奇心を持って行動すれば、良い顔につながっていきます。また、これ一つではなく「合わせ技1本」の考え方も大事でしょう。週3日バイトで働きながら博士論文を書いている知人はとても元気です。働くことに学びを合わせて「1本」としても良いですよね。
黄金の15年は「これだけ」という生き方でなく、ゆとりを持って、良い顔で過ごされることを願っています。

楠木 新(くすのき あらた)

1954 年、神戸市兵庫区新開地生まれ。64 歳。京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を歴任。 47 歳で、昇進を機にうつ状態になり、休職。50 歳で復帰し、勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材と執筆活動を展開。60 歳で定年退職し「プー タロー」を続けながら作家活動に。シニア向けに 17 年に著した「定年後」が 25 万部を超えるベストセラーになった。続編の「定年準備」をはじめ「左遷論」(いずれも中公新書)「人事部は見ている」(日経プレミアシリーズ)「働かないオジサンの給料はなぜ高いのか」(新潮新書)など著書多数。18年から神戸松蔭女子学院大教授。
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